包括承継主義と管理清算主義
債務も含めた被相続人の相続財産をどのようにして相続人に相続させるかという考え方については、包括承継主義と清算管理主義という考え方があります。
日本は包括承継主義を採用しており、債務も含めた被相続人の相続財産は、被相続人の死亡により直ちに相続人に包括的に承継されます。従って、例えば、相続人が複数人いる場合は相続財産の分配について相続人間で協議が整えば、相続人は、裁判所の管理監督の必要なく、金融機関などと相続財産である預金の払い戻しのための交渉をすることができます。ドイツ、フランス、イタリア、スイスなどの大陸法系諸国でも包括承継主義を採用しています。
これに対して、アメリカ、イギリス、香港、シンガポールなど英米法系の国では管理清算主義を採用しており、相続財産は、被相続人の死亡によりいったん「人格代表者」の管理下に入り、裁判所の監督による清算手続を経た後で、残余財産だけが相続人に分配されることになります。この清算手続はプロベイトと呼ばれ、裁判所の監督の下で行われます。「人格代表者」は現地で相続手続を実施する者(遺言で指定された遺言執行者や裁判所が選任した遺産管理人)のことであり、相続人等からの申立てにより裁判所が任命します。人格代表者が行う清算手続は、遺言の確認、相続人や相続財産の確定、債務の清算、相続税の支払いなど相続に関するあらゆる手続を含んでおり、これらの清算完了後の残余財産だけが相続人に分配されることになります。
日本のように包括承継主義を採用する国であっても、相続財産が海外にあり、相続人間で争いになっている場合は、相続財産のある国の裁判所に遺産相続の紛争の申し立てを行う必要があるでしょう。この場合、相続財産をどのようにして相続人に相続させるかという点に関する準拠法は、動産か不動産かに関わりなく相続財産がある国の法律が適用されます。従って、アメリカやイギリスなど管理清算主義を採用する国に相続財産がある場合、プロベイト手続が必要かどうかや、プロベイト手続の中でどのようにして相続財産の清算を行うのかについては、相続財産がある国の法律によって決定されます。一方、アメリカやイギリスにある相続財産について誰が相続人でその相続分の割合などの相続に関する準拠法は、遺産相続の紛争が係属している裁判所の国際私法によって決定されます。アメリカのように相続分割主義を採用する国では、不動産は不動産が所在する国の法律を準拠法とし、動産は被相続人の本国法や住所地法を準拠法とすることになります。被相続人である日本人がアメリカに不動産と動産を保有していた場合、誰が相続人でその相続分の割合など相続に関する問題は、不動産は不動産の所在する州法が適用され、動産は被相続人の本国法(日本法)が適用されることになります。
このように、国際相続は、被相続人がどこの国籍(住所地)で、相続財産がどこの国にあるかといった点を整理し、相続に関してどの国の法律が適用され、相続財産の管理分配に関してどの国の制度・手続に従って行われることになるのかかといった問題を検討する必要があります。
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著書・論文
- ミャンマー会社法・外国投資関連法※監修、㈱アイキューブ
- 海外派遣者ハンドブック(フィリピン編)※主査、日本在外企業協会
- 中小企業海外展開支援 法務アドバイス※共著、経済法令研究会
- 日インドEPAの原産地規則※ビジネス法務
- 中国ビジネスのための法律入門 中央経済社 他多数
経歴
- 早稲田大学政治経済学部卒業
- ペンシルベニア大学ロースクール(LL.M.)卒業
- 大連外国語学院 長期語学研修課程(中国語)修了
- 2001年 日本国弁護士登録 (54期)
- 2009年 米国カリフォルニア州弁護士登録
- 現在 弁護士法人桜橋総合 代表社員
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